漫画テルマエロマエには、日本人が「平たい顔族」として登場する。
もちろん、実際の古代ローマには日本人はいなかったが、実は「平たい顔族」の記録ならば沢山ある。
「くすんだ色の肌、小さな目と鼻、扁平な顔面、小柄だががっしりした体躯」と言う平たい顔族だ。
これら、ローマ側記録に残る平たい顔族とは、フン族である。他の蛮族達からも恐れられ、ゲルマン部族など当時のローマ周辺蛮族の約半数を従えてもいた、アッティラ大王率いる同時代最強の部族である。
アッティラは、パンノニア、つまり現代のハンガリーに都を置き、そこにはローマ人の官吏もいたので、上記の様な記録が残っているのだ。
(因みに、映画版テルマエロマエの作品中で、砂風呂を作ったのはパンノニアに於いてなので、対戦相手はフン族だったかも?)
テルマエロマエの影響もあるかも知れないが?日本人は古代ローマ帝国びいきな様だ。
ローマが滅んだ原因を「十字架とズボン」つまり「キリスト教と蛮族」であるとして、キリスト教と蛮族に対しては辛口評価が多い。
一方で、異教ローマ時代の野蛮さは、あまり語られる事がない。
古代ローマの合言葉は「ローマは剣でお返しする」であったが、広大な領域から剣で徴収した富で、中央集権国家の中枢ローマは富み、皇帝はその富で市民に各種サービスを提供して人気取りを行った。「パンと見せ物」だ。
その一つが、円形闘技場で催された、人間同士の殺し合いや、獣が生きた人間を狩り食べるのを見物する等の見せ物だ。人間が狩られ食べられる光景を楽しむ程、道徳観念が倒錯していたのである。
人々は堕落し、帝国は衰退して行く。そんな中で、キリスト教が浸透していき、また、蛮族の侵入が頻繁になっていった。
アッティラ大王率いるフン族が、突然、東の草原から現れたのは、そんな頃だ。
他の蛮族は、アッティラに臣従するか、ローマ領域内へ逃げ込んだ。カタラウヌムの戦いで、フン族とローマ、双方に加勢した蛮族が戦い、辛くもローマ側が勝利した事で、ローマは「神の鞭」をかわす事が出来た。
その後、フン族は滅亡し、以前フン側に加勢した蛮族も滅亡していったが、その後、西ローマ帝国は、帝位を東ローマに預けて消滅する。跡地には蛮族が分立し、三位一体を受け入れた部族だけが子孫を残した。
異教ローマは、一旦滅んだ。「ローマは剣でお返しする」と、ユダヤ属州等を滅ぼし、各地を征服して得た奴隷を見せ物ショーで殺していた野蛮なローマは、「剣を取る者は、剣で滅ぶ」と言う聖書の言葉通り、キリスト教化された上で解体された。
リアル版「平たい顔族」は、期せずして、それらの出来事に一役買ってしまった訳だ。
それから、長い年月が経ち、世界は再び、人間の社会に弱肉強食の獣の掟を適用し、科学を崇拝し、人間が神になろうとする、異教ローマ、異教ヘレニズム的要素が蘇って来た。
テクノロジーで実現された言葉を話せる支配AIは、聖書にある記述通りだ。その監視支配システムのピラミッド社会の中で、人々は自由を返上し、積み石やレンガの様に洗脳で画一化している。
その監視システムは、社会全体の場を円形闘技場に変え、標的にされた市民を、他の市民が狩ると言う娯楽、見せ物を提供している。
これはまるで、道徳が廃れて異教的独裁者が神を名乗ると言う、666で表される獣の復活を見ている様な情景だ。聖書の言う通り、それらが現れて来ているのだ。
現代の「平たい顔族」は、この局面で、神の鞭ならぬ反キリストを出す事になるかも知れないと思う。何故ならば、彼らはこの事態を進める事に前のめりだからだ。